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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)2655号 判決 1977年12月08日

原告 株式会社関東製作所

右代表者代表取締役 渡辺正敏

右訴訟代理人弁護士 萩秀雄

同 中村博一

被告 株式会社 三徳

右代表者代表取締役 中村安宏

右訴訟代理人弁護士 松井孝道

主文

一  東京法務局所属公証人多田正一作成昭和五〇年第三一八一号債務弁済契約公正証書による訴外内田樹脂工業株式会社の被告に対する債務につき、訴外内田優明と被告との間でなされた連帯保証契約を金一九九一万一六五二円の限度において取消す。

二  東京地方裁判所昭和五一年(リ)第五二号事件につき同裁判所の作成した配当表中、被告に対する交付額を、金二一五万一二二三円とあるのを金八万八三四八円に、原告に対する交付額を、金二四万八六二八円とあるのを金二三一万一五〇三円に変更する。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(請求の趣旨)

一  東京法務局所属公証人多田正一作成昭和五〇年第三一八一号債務弁済契約証書による訴外内田樹脂工業株式会社の被告に対する債務につき、訴外内田優明が被告との間でなした連帯保証契約はこれを取消す。

二  東京地方裁判所昭和五一年(リ)第五二号配当事件について、同裁判所の作成した配当表の被告の請求債権額並びに交付額の部分はこれを取消し、原告の交付額を二三一万一五〇三円と変更する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

(請求の原因)

一  訴外内田樹脂工業株式会社(以下、訴外会社という。)は、プラスチック製品の製造販売を業とする会社であるところ、原告に対する買掛金支払のために別紙手形目録(一)ないし(六)記載の約束手形(以下、本件約束手形(一)(二)というようにいう。)を振出し、当時右訴外会社の代表取締役であった訴外内田優明は右各手形に保証の意味で裏書をした。

二  訴外会社は資金繰りに窮し、本件約束手形(一)を不渡としたので、原告は、訴外内田優明を債務者、訴外中央信用金庫を第三債務者として、別紙債権目録記載の債権につき(以下、本件預金債権という。)債権仮差押をし(昭和五〇年七月二日被保全債権を本件約束手形(一)ないし(四)の手形上の請求権とする東京地方裁判所昭和五〇年(ヨ)第四〇九四号債権仮差押命令、同年七月七日被保全債権を本件約束手形(五)(六)の手形上の請求権とする同裁判所昭和五〇年(ヨ)第四一八四号債権仮差押命令)、更に原告は、訴外会社及び訴外内田優明を共同被告とし、本件約束手形(一)ないし(六)の手形上の請求権につき、同裁判所に約束手形金請求訴訟(昭和五〇年(手ワ)第一九二〇号事件)を提起し、同五一年一月一六日原告勝訴の判決を受け、右判決に基く強制執行として本件預金債権につき同裁判所同五一年(ル)第二九五号同年(ヲ)第三二九二号をもって債権差押及び転付命令を得、同命令は同五一年二月三日訴外内田優明及び同中央信用金庫に各送達された。

三1  ところが右債権仮差押後、被告は訴外会社及び訴外内田優明との間で昭和五〇年一〇月二二日付で訴外会社は被告に対し金二〇〇〇万円の買掛代金債務のあることを確認し、右債務につき訴外内田優明が連帯保証をする旨の債務弁済契約公正証書を作成した。

2  被告は、前記公正証書に基づき同五〇年一二月一九日、本件預金債権につき東京地方裁判所同五〇年(ル)第四五〇五号、同年(ヲ)第七四〇〇号をもって債権差押及び取立命令を得た。

四1  訴外中央信用金庫は民事訴訟法第六二一条二項により本件預金債権を供託し、東京地方裁判所にその旨の事情を届出た。

2  原告は、昭和五一年(リ)第五二号事件における同五一年四月二一日の配当期日において、同裁判所の作成した原告に金二四万八六二八円、被告に金二一五万一二二三円を各交付する旨の配当表中、被告の請求債権額金二〇〇〇万円の全額を否認し、異議申立をした。

五  すなわち、訴外内田優明は、被告と本件連帯保証契約を締結した当時、訴外中央信用金庫に対する本件預金債権以外に財産を所有しておらず、債権者である原告を害することを知って前記公正証書により本件連帯保証契約を締結したものであるから、右行為は民法四二四条の規定する詐害行為に該当するものである。そこで原告は同条の規定により右連帯保証契約を本訴をもって取消す。

六  よって原告は被告に対し、請求の趣旨記載の判決を求める。

(請求原因に対する答弁)

一  請求原因第一項の事実中、訴外内田優明が保証の意味で裏書をしたことは否認し、その余は認める。

二  同第二ないし第四項の事実はいずれも認める。

三  同第五項の事実は否認する。訴外内田優明は総資産金一億円を超える訴外ケイヨー株式会社の全株式を有しており原告主張のような無資産者ではない。

四  同第六項は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  原告が訴外会社及び訴外内田優明を共同被告として、本件約束手形(一)ないし(六)の請求訴訟を提起し勝訴したこと、原告は右勝訴判決に基き本件預金債権につき差押及び転付命令を取得したこと、被告が、訴外会社及び訴外内田優明との間で昭和五〇年一〇月二二日付で訴外会社は被告に対し金二〇〇〇万円の債務のあることを確認し、右債務につき訴外内田優明が連帯保証する旨の債務弁済契約公正証書を作成したこと、被告は、右公正証書に基き本件預金債権につき差押及び取立命令を取得したこと、そこで訴外中央信用金庫は本件預金債権を供託し、その旨の事情を届出をし、昭和五一年四月二一日当庁で実施された配当期日において、原告が被告の債権全額の存在を否認し、配当表に対し異議を申し立てたこと、はいずれも当事者間に争いがない。

二  そこで被告と訴外内田優明間でなされた本件連帯保証契約が同人の債権者である原告を詐害するものであるか否かにつき検討する。

まず本件連帯保証契約を締結した昭和五〇年一〇月二二日当時の訴外内田優明の財産状態であるが、《証拠省略》によると、右当時において、訴外内田優明は、訴外中央信用金庫に対する本件預金債権以外に訴外ケイヨー株式会社の株式を有していたが、そのほかには不動産その他銀行預金等の債権を有していなかったこと、訴外ケイヨー株式会社は、昭和四一年一月二六日、資本金一〇〇万円で訴外内田優明が三人の兄弟とともに設立したプラスチック製品の製販を目的とするいわゆる同族会社であるが、現在経営権をめぐり右兄弟間に紛争を生じ、訴外内田優明は仮処分により代表取締役の職務を停止されていること、また同社の営業状態は、現在やゝ持ち直してはいるものの、過去において倒産の危機におちいったこともあり、非上場会社でもあることから、同社の株式は、一般市場では処分しにくく、商品価値に乏しいものであること、が各認められる。

なお、証人内田優明は、同人は、訴外ケイヨー株式会社の小山工場の工場敷地の借地権及び幕張工場の借家権を有するかのように証言するが、同人の証言によるも、何時誰から賃借したのか、また内田個人が賃借したのか、同人が関係していた会社が賃借したのか定かでなく、また右証言に副う土地・建物の賃貸借契約書等の書証も本件訴訟手続において提出されていない。さらに、同証人は、同人は一五か一六の特許権を有すると証言するが、右証言によるも右特許権が当時どれだけの価値を有するものか定かではなく、同人の証言はいまだ右認定事実を覆えすに足らない。

右事実よりみれば、本件連帯保証契約締結当時において、訴外内田優明は本件預金債権以外には原告の債権を弁済するに足りるだけの財産を有してなく、本件連帯保証契約は、訴外内田優明の債権者である原告を詐害するものである。

そして前記認定事実によれば、訴外内田優明は本件連帯保証契約が債権者である原告を害することを知っていたことが認められる。

三  以上によれば、本件連帯保証契約締結時点において原告主張の詐害行為の要件は具備しているものと認められるから、本件連帯保証契約は、原告の訴外内田優明に対する金二三一万一五〇三円を保全する限度においてすなわち一九九一万一六五二円の限度において取消されるべきものであり、従って昭和五一年(リ)第五二号事件において当庁の作成した配当表中、被告に対する交付額を金二一五万一二二三円とあるのを金八万八三四八円に、原告に対する交付額を、金二四万八六二八円とあるのを金二三一万一五〇三円に各変更するを相当とする。

四  よって原告の本訴請求は右の限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、同九二条但書を適用して主文のとおり判決をする。

(裁判官 満田忠彦)

<以下省略>

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